2010年12月20日

「決意の夜明け」 山崎×土方

山崎×土方連作第2弾です。
黎明録土方ルート4章後半〜5章、某羅刹に関わる事件についての話です。
上記ルートのネタバレを含みますのでご注意ください。



ご了承頂ける方のみ、本文へお進みください。






 気付けはいつの間にか、空は白み始めていた。
 間もなく朝がやって来る。
 慌ただしく、腹立たしい出来事ばかりのこの夜も、ようやく終わりだ。
「……」
 あれこれ思考を巡らせながら、ふと顔を上げた俺は、僅かに東に覗く朝日を振り仰ぎ、きつく唇を噛み締めた。
 捕縛中の不貞浪士を使った実験。
 その結果の羅刹の暴走。
 証拠隠滅。
 この夜の顛末を思えば、寝不足以外の要因でまた頭が痛くなって来る。
(ったく……、新見さんもやってくれるぜ……)
 死体の始末は既に済んだが、考えなきゃならねぇ問題はまだ山積みだ。
 その現実に、俺はまた苦虫を噛み潰した。
『逃げ出すも何も……。もう始末してしまったんですから、いいじゃありませんか』
『…わかりました。今後は、浪士を使って実験はしませんよ。それでいいでしょう?』
 完全に居直った事件の元凶のふて腐れた言動を思い出せば、苛立ちと焦燥が胸の奥から湧き上がる。
 あの様子じゃ、新見さんはまたいつか、こんな騒ぎを起こすだろう。
 芹沢さんは、深夜に騒ぎを起こすことには迷惑そうにしていたが、変若水の実験自体にゃ、継続の方針を崩さなかった。
 新見さんは、局長の座を退いた今でもまだ、芹沢さん以外の言葉に耳を貸すつもりはねぇ。
 そいつはつまり……またいつ同じことが起きたとしても、不思議はねぇっていうことだ。
「くそっ……!」
 刹那。
 胸にまた苦いもんが込み上げて、俺は短くそう毒づく。
 こういうことがねぇようにと、こっちからは山南さんをお目付け役に就けてたんだが。
 しかし、あの人も変若水のことばかりに感けてられる程暇じゃねえ。監視をするにも、限度ってもんがあるだろう。
 つまり、今の俺達が新見さんの動きを完全に封じ込めるのは不可能だ。
 そうなれば……遅かれ早かれ、今日みてえなことはまた必ず起きちまう。
 今はまだ、この幕府の密命について知る者はごく少数だが、何か手を講じねぇ限り、この件を平隊士どもに知られる可能性もこれからますます高くなっていくだろう。
 現に、前回は井吹、今回は山崎がひょんなことから騒動に巻き込まれ、変若水や羅刹のことを知る羽目になっちまったんだ。
 ……。
(山崎、か……)
『…申し訳ありません、副長……』
「っ……!」
 血の気の失せた顔をして、羅刹の死体を見つめていた山崎の姿が脳裏にありありと蘇る。
 刹那、腹の底から、さっきまでのもんとは違う遣り切れなさが込み上げて、俺は堪らず深々と嘆息した。
 ……。
 今夜のことは、あいつとって相当の衝撃だったに違いねぇ。
 斬られたうえに首をはねられた化け物の死体や血の臭いへの激しい嫌悪。
 自分自身がその始末を担わされることへの苦痛。
 そしてさらには、変若水なんておかしな薬の開発に、浪士組が関わっていたって事実。
 斬った不貞浪士の首を市中に晒すなんて、芹沢さんの馬鹿げた決定。
 まったく……どれ一つを取ったって、尋常な話じゃねえ。
 いくら武士に憧れていたと言ったって、平穏に鍼医者の家で育ったあいつには、どれもこれも、鮮烈過ぎる事実の筈だ。
(ったく、あいつもまったく運がねえよな……)
 浪士組の一員である以上、誰もが斬り合いや人死と無関係じゃいられねえのは無論俺も理解している。
 だが、それでも人を斬ったこともねえ奴が、こんな場面に出くわしたのは、本当に不運としか言いようがねえだろう。
『この程度のことで、いちいち貧血起こされちゃ、斬り合いなんて出来ねえよ』
 あの場では、山南さん達の目もあって、そんな苦言を呈したが。
 取り乱したり逃げ出したりしなかっただけ、山崎はマシだと言えるだろう。
 真っ青な顔で嘔吐を必死に堪えながら、俺が与えた後始末の役目をちゃんとやり遂げたのも、評価してやっていい。
 だが……。
 浪士組の裏側に触れた山崎が、今後も今までと同じように、この組織の隊士として働いて行けるのか。
 任務遂行に、己の命を賭けられるのか。
 そいつはもう、俺にも正直わからなかった。
『いいえ、不満などありません。むしろ、自分を活かせる場を頂けていることを、俺は光栄に思います』
『浪士組に籍を置き、自らに与えられた任務を遂行する以上、その役目がいかなるものであろうとも、俺は武士です。少なくとも、自分はそう思っています』
 いつだったか。縁側で会ったあいつが、嬉しそうにそう話していたことを、改めて思い出す。
「……」
 入隊以来、いつでも糞真面目に隊務に取り組んで来た山崎。
 俺があいつを買っていたのは、何も京や大坂の土地勘があるからってだけじゃねえ。
 本当に本気で武士に憧れて、そうなろうとする姿勢……気概、心意気。
 俺はあいつのそういうもんを買っていた。
 勿論、元々武家に生まれ、長年修業をして来た奴らと比べりゃ、あいつはそう強くねえ。
 目録や免許を持った奴らが集まる浪士組の中にあっちゃ、正直剣の腕に関しては下から数えた方が早いだろう。
 が……。
 あいつには、それを補えるだけの心……信念があると、少なくとも俺はそう思っている。
 もっともそいつは、俺自身が近藤さんに憧れて侍になりてえと夢見て来た身だからこそ、信じたいことだったのかもしれねえが。
 だが、少なくとも幹部連中の殆どは、俺と大差ないことを考えているようだった。
 事実、武士の生まれで半端に腕が立ち、隊務に対し不平不満ばかり多い他の奴らより、どんな時でも熱心に隊務に当たる山崎の評価は高かった。
 島田とともに、俺が奴を監察方に推した時も、反対したのは総司一人。
 そいつも、山崎個人がどうって言うより、俺の決定が気に食わねえっていつものあれだ。
『ああ、いいんじゃねえか。あいつ、馬鹿真面目なうえ、口も固そうだもんな。そういうことにゃ、適任だろ』
『別に、俺はそれで構わねぇよ。土方さんの好きにすりゃいいじゃん』
『賛成です。彼は信頼に足る人物だと、少なくとも俺はそう思います故』
 それ以外の連中は、皆二つ返事でこの人選を了承した。
 まあもっとも、この一月で山崎の俺への信望振りはすっかり周知になっていたから、奴らは一様にそのことを面白がっていたのもまた事実だが。
『どうだ、トシ。真正面から惚れ込んでいると言われるのは、なかなか面映ゆいものだろう?』
 挙げ句、近藤さんまでが、笑顔で俺にそんな冗談を言う始末だ。
『からかわねえでくれよ、近藤さん』
 俺は小さく苦笑しながら、近藤さんにそんなふうに答えたが。
 ……まあ、近藤さんのその指摘も、あながち間違っちゃいなかった。
『ここに来た者は身分に関わらず武士として扱う。副長は、俺にそう言ってくださいました』
 恐らくは、お披露目の席で掛けた言葉が一つのきっかけだったんだろう。
 山崎はこんな俺を馬鹿みたいに信望して、周囲にそれを隠そうともしねえ。
 斎藤にも、俺に対してそんなところは感じるが、あいつの場合、重要なのは左利きの自分の剣を認めて貰えた事実であって、それに恩義を感じているとまあ理解できる。
 が、山崎はそうじゃねえ。
 俺はただ、これから仲間に加わるあいつに武士として歩む覚悟を質しただけだ。
 それなのに……。
 山崎はそのことを、まるで大恩でも受けたように感じているらしい。
(やれやれ、一本気なのも考えもんだな)
 ただひたすら、近藤さんを担ぎ上げることだけを考えて来た俺は、自分が他人から妄信されることなんざ、想像もしていなかった。
 だが、だからと言って、立場を変えりゃ山崎の気持ちもわかる分、「よせ」と言うだけ無駄だってのも、俺にはよくわかってる。
 それに……。
 実を言や、山崎にあの真っ直ぐな目を向けられるのは、かなりくすぐったくはあるものの、悪い気はしなかった。
『お前程の男が俺を信じてくれるなら、俺はもう一度だけ俺自分を信じてみよう』
 上洛に腹を括る際、近藤さんは俺にそんなことを言っていたが、俺も多分似たようなものなんだろう。
 糞真面目で真っ直ぐな山崎みたいな奴がここまで信望してくれるなら、自分はこいつの上役として馬鹿な真似をする訳にゃいかねえ、と。
 いつからか、俺はきっとそんなことを考えている。
 そうして、そんな想いがあったからこそ、俺は今夜、憔悴した様子の山崎を敢えてこの部屋に呼びつけた。
 この幕命が、多くの犠牲を生むもんだってことは勿論承知している。
だが、家名も後ろ盾もねぇ自分達が、この京で伸し上がる為には、今は変若水や羅刹の存在に頼るしかねえ。
 そんな汚い手を使おうとも、俺はどうしても本物の武士になって、近藤さんを相応の地位まで押し上げてえ。
 俺自身の口から直に、そんな話をするために。
 そして……。
『どうして、貴方はそこまで……?』
 掠れた声で、そんなふうに問われると、俺は求められるまま、武士になり、近藤さんを担ぎ上げたいと切望するに至った経緯を、山崎に打ち明けた。
(……ったく、何をしてやがんだ俺は。いくら聞かれたからと言って、関係ねえ話までぺらぺらと喋りやがって……)
 振り返れば、今更ながらそんな自分が可笑しくて、俺はまた苦笑する。
『珍しいですね。土方君、君が一隊士にそこまで心を砕くとは』
 山南さんには、さっきそんな皮肉も言われたが。
 まあ、あの人がそう言いたくなるのも無理はねえ話だろう。
こんなのは俺らしくねえってことは、勿論自分が一番よくわかってる。
 恐らくは、自分と何処か似た境遇にある山崎に、多少情が移っちまっただけなんだろう。
 だが、少なくとも俺は、山崎にてめえの過去を話した事を、今も失敗だとは考えちゃいなかった。
 いや、むしろ……。
 あいつが今後のことについて考えをまとめる為には、そいつは必要なことだったんだと、俺はそう考えている。
「……っ!」
 山崎は、俺の長話を神妙に……後半はやけに感慨深げに聞いていた。
 話が全て終わった時、青ざめていた奴の顔が少しだけ明るくなったような気がして、俺は正直少し安堵したもんだ。
 だが……あいつ自身の結論はまだ出ちゃいねえ。
 元の想いが真っ直ぐで強いもんだからこそ、変若水や羅刹なんて馬鹿げた計画への反発や嫌悪も人一倍大きいだろう。
 それを乗り越え、あいつが今後も今までみてえに働けるのか。
 そいつを決めるのは、他でもねえ山崎自身だ。
(山崎……お前は一体どうするんだろうな?)
 胸の奥で問い掛けても、勿論、返る答えはない。
 その事実に、少し焦りを感じているのを自覚して、俺は一つ嘆息した。
 ……。
 言えることは、全て伝えた。
 俺自身の考えも、浪士組が進もうとする道筋も、問われるままに腹を割って話をした。
 だから今は、奴自身の結論を待つしかねえ。
 俺に出来るのは、それだけだ。
(山崎……)
 勿論、局中法度がある以上、どんな結論に至ろうとも、浪士組を辞めさせることは出来ねえ。
 だがしかし、監察方の任を解くなり、与える任務を限定するなり、今後のあいつの扱いをある程度配慮してやることは出来るだろう。
 無論そうなれば、今までのようにはいかなくなるが……。
「ッ…!」
 いずれにせよ、間もなくその結論は出る。
 あいつはこんな重要な問題を先送りにして隊務に臨める程、器用でも無責任でもねえだろう。
……。
 ふと気付けば、東の空は完全に朝の色に変わっていた。
 どんよりと曇りっぱなしのこっちの心模様も知らず、朝の空は今日も青く晴れ渡っている。
「くそっ……!」
 眩し過ぎる日の光が何だか無性に恨めしく、俺は思わず眉を寄せて毒づいた。
 と、刹那。
「……副長。起きていらっしゃいますか?」
「っ?!」
 襖越しに、潜めた声で名を呼ばれ、俺は思わず息を飲む。
 ……。
 ………。
 今の今まで考えていた奴のことだ。
 その声を、聞き間違える訳がねえ。
 声の正体を理解すると同時に俺は、部屋の外に立たれるまで、気配にまるで気付かなかった自分自身に苦笑した。
「ああ、起きてるぜ。入って来いよ」
 そうしてなるたけ平静を装いながら、俺は端的に奴を部屋の中へと促す。
 すると、僅かに躊躇を見せた後、ゆっくりと襖が横へ引かれ、そいつは俺の前に静かに姿を現した。
「失礼致します」
 深く一つ礼をした後、奴は素早く自身の体を室内に滑り込ませる。
 もう一度、俺に向かった頭を下げると、山崎はそこでようやくおずおずと頭を上げた。
「……」
 瞬間、俺と奴の視線が真っ向から交錯する。
「このような早朝に、申し訳ありません」
 山崎は、俺と目を合わせると、開口一番そんな謝罪を口にした。
 普段通りの堅苦しいその物言いに、俺はまた苦い笑みを口許に張り付ける。
 そうして俺は、おどけたように一つ小さく肩を竦めた。
「構わねえよ。どうせこうして起きていたしな。それよりお前こそ、今日はやけに早えじゃねえか」
 釣り上がり気味な目の下に、はっきりと刻まれた隈を見りゃ、山崎も俺と同様、一睡もしてないことは明白だ。
 だが俺は、敢えて素知らぬ振りをして、山崎に向かいそう告げた。
 だが、冗談めかした俺の言葉に、奴はさらに表情を引き締める。
「はい……。皆が起き出してしまう前に、どうしても副長にお伝えしたいことがありまして」
 そうして奴は、そこまで言うとやけに神妙な顔をしたまま唇を引き結んだ。
「……」
 目の前の畳を睨みつけ、微塵も動かねえ菫の瞳。
 明らかに緊張し、固く強張ったままの表情。
 その顔からじゃ、まだこの男の出した結論がどっちなのか、俺には察することは出来ねえ。
 ……。
 俺が無言で窺うなか、奴はそのまま二度三度と、唇を解き掛けては閉ざすことを繰り返す。
 が、やがて。
「っ!」
 てめぇ自身の迷いを振り払うようにきつく両の拳を握ると、山崎は一つ顎を引き、俺を真っ直ぐ見上げて来た。
(山崎……?)
 迷いのない釣り上がり気味の紫の目は、力強い光を湛えて真正面から俺を射抜く。
 そうして奴は、暫し俺を見詰めた後、また深々と頭を下げた。
「昨夜は、不様な姿を晒してしまい、申し訳ありませんでした」
「……」
「ですが、もう二度と、このような失態は犯しません。今ここで、この身に掛けて、俺はそう誓います。……ですから、どうか今後とも、俺に副長直属の監察方の大役を担わせて頂けないでしょうか」
「……山崎…」
 口振りこそ、俺の意向を問うものだったが、その声には駄目だとは言わせねえ響きがある。
 その一言に、俺は奴が行く道を定めたことを、はっきりと理解した。
(ふっ……どうやら吹っ切りやがったか)
 内心そう呟けば、我知らず頬が緩みそうになる。
 が、俺は敢えて仏頂面を押し通すと、山崎を見返したまま、静かに唇を解いた。
「……本気なんだな?」
「はい」
「わかっていると思うがな、二度目はねえぜ。それに、監察方を続ければ、否が上でも浪士組の裏側を……あの幕命に関わるもんをずっと見て行くことになる。それでもいいのか?」
「構いません」
 山崎の回答は、静かだが微塵も迷いがない。
 と、奴はそこでまたキッとその瞳に力を込めると、はっきりと続く言葉を切り出した。
「この一晩で、考え抜いて、ようやく心が定まりました。土方さん……貴方が近藤局長を相応の地位に担ぎ上げるため、力を尽くされると言うのなら、俺は貴方を誠の武士にするために働きたい。……俺には幹部の方々のような、剣の腕はありません。しかし俺にも、影となり、副長や浪士組を支えることは可能な筈です。貴方に頂いた監察方というこの役目、俺は自分の全てを賭して、これからも全うして行く覚悟です」
「山崎……」
『幾多の死をその目に焼き付け、自分の身さえ危険に晒すことになろうとも』
『浪士組が、目的を遂げる為なら、変若水や羅刹なんておかしなものさえ容認するような組織でも』
 朝日を受けた菫色の双眸は、山崎のそんな声には出さない言葉まで、俺に切々と伝えて来る。
 ……。
 今、俺の前にあるのは、理想や憧れなんてお綺麗なもんを金繰り捨てた、本物の漢の信念と決意だ。
 それをはっきり理解して、俺は今度こそ、口の端を持ち上げた。
「そうか。……なら、これからもしっかり頼むぜ。山崎」
「はい!」
 俺が激励の言葉を掛けると、山崎は大きく首を縦に振った。
「島田はこういう裏の事情を知らねえからな。当分の間、変若水絡みのことについちゃ、お前と井吹に任せることになっちまうが、構わねえか?」
「勿論です。お任せください」
 一度心を決めちまえば、こいつはもう揺らがない。
 俺の続く確認にも、ぽんぽんと歯切れのいい返事が飛んで来る。
 と、刹那。
 不意に何を思ったか、山崎はまた少し表情を引き締めると、すっとそこで居住まいを正した。
 そして……。
「副長」
「ん?」
「ありがとうございました。今夜のこと、俺は決して忘れません」
 律儀な男は、感慨深げに礼の言葉を口にして、俺にまた頭を下げる。
(ったく、こいつは……)
 その様子に、俺は今度は頬が緩むのを、堪えることは出来なかった。
 本当に、何処までも糞真面目で真っ直ぐな奴だ……。
「何のことだ?」
「は……?」
「俺は特段礼を言われる覚えはねえがな」
 そんな山崎の想いや視線が少しばかり面映ゆくなり、俺は敢えて、そんな返事を口にする。
「副長……」
 山崎は俺の反応に、意外そうに幾度か目を瞬かせたが……。
 やがて奴は、不意に得心したように、少しだけ口許を綻ばせた。
 こいつらしい、控えめで静かな笑顔。
 その顔に、俺は心の奥の方が、何だかやけに温かくなるのを自覚した。
 ……どうやら俺は、想像していた以上に山崎のこの決断に安堵を覚えているらしい。
 そう自覚すれば、またらしくねえ自分自身に自然と苦笑が込み上げる。
「……副長?」
「いや……何でもねえよ」
 だが、そいつを口にするのはあまりに癪だ。
 だから俺は、不思議そうに問う山崎に、そんな曖昧な答えを返した。
 ともかく、これで今夜俺を悩ませていた問題は、一つ解決した訳だ。
 山崎は、これからも観察方として、変わらず俺の傍に在る。
 今まで同様、俺の命令に忠実に、諜報なんて損な役目を真摯に担ってくれるだろう。
 そのことを、俺は嬉しく思う。
 しかもそいつは「自分がこいつを罰することが無くなった」とか、「今後のことへの懸念が一つ減ってくれた」とか、そういうことじゃねえらしい。
(っ……!)
 そこまで考えて、俺は奴に気付かれないように、一つ小さく肩を竦めた。
 ……そうだ。
多分だが、俺は相当こいつのことを気に入っている。
 京に来てから出会った他の誰よりも。
 日野の片田舎から一緒に出て来た連中を同じように信頼できると思う程に。
(山崎……)
 目の前で、菫色の双眸は、まだ何処か不思議そうに揺れている。
 俺はその目を改めて見返して、また少し口許の笑みを深くした。




<後書き>
山崎×土方連作第2弾をお届けします。今回は前回とは対照的に副長視点でお届けしました。本編では山崎→土方な印象でしたが、黎明録をプレイして「なんだ、副長も山崎を大切にしてるんじゃない」と思ったのは二月だけでしょうか?…すみません。特に今回の元となるエピソード。副長、優しいですよね!!基本的に、土方さん視点で書く崎土は、なんだかとっても幸せな気持ちになります。次回はまた山崎視点で、新見さんの脱走辺りの下りをお届けする予定です。よければ今度とも、どうかお付き合いください。


posted by 二月 at 10:21 | 山崎×土方連作「夢の蹟」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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