2011年11月27日

「声なき回答」 山崎×土方

Attention!!
この作品は、男性同士の性的表現を含みます。
18歳未満の方の閲覧は、かたくお断りします。ご了承ください。

山崎×土方連作第13弾です。
前作「真冬の嵐」の直後の話。
土方視点でネタバレは特にありません。




ご了承頂ける方のみ、本文へお進みください。











 身体が、熱い……。
 穿たれた硬い楔に身の奥を掻き乱され、懸命に噛み締めようと、唇からは荒い息と耳障りな自分の声が零れ落ちていく。
『ぅあ……くっ……っ!あ、……はっ!……』
 初めて自分の身を襲う凶暴で甘美な情欲と熱。
 一方的に与えられる苦痛と紙一重の快楽に、俺は乱され、翻弄される。
『……そんなに、御自身を罰したいのですか?』
 ……。
 耳の奥で、低めた男の声がする。
『副長、貴方はそれほどに、御自身に罰を与えたいのですか?!』
 ……。
 罰?
 これは近藤さんから刀を奪った俺に対する罰なのか?
 揺さ振られ、耐え難い熱に浮かされながら、ふとそんなことを考える。
 だが直後、俺はすぐにその考えを、胸の奥で打ち消した。
 ……いや、そんな筈はねえ。
 これが俺の罪に対する裁きだっていうんなら……今自分を抱く腕が、こんなにも温かい筈はねえだろう。
『ッ……!』
 奥歯を噛み締め、俺は半ば強引に、自身の瞼をこじ開ける。
 刹那、涙で霞んだ視界の中に映ったのは、煽情的に寄せられた眉と蝋燭の灯に揺れる鮮やかな菫色。
(山崎……!)
『っくぁ、……山ざ、き……ぁっ!……山崎っ!……』
 込み上げる衝動のまま、俺は幾度も、自分を組み敷き、凌辱し、そして救おうとする男を呼ぶ。
 直後。
 一際激しく最奥を穿たれて、我知らず、身体が解放の予感に震え出す。
『っ、副…長……!!』
『くぅ、ぁああ―――!!!』
 きつく抱き寄せる腕の強さと温かさを感じながら、俺は昇り詰めると同時に、そのまま奴の胸の中で、自分の意識を手放した。

 目が覚めると、とうに夜は明けていた。
「……」
 重い身体を横たえたまま、天井から障子戸へと目を移し、射す光の眩しさに、思わず僅かに眉を寄せる。
 そして、直後。
 俺は夜着を纏って寝床にいる自分の状況に、改めて気がついた。
「っ…!!」
 ………。
 一瞬、思考が混乱する。
 普段と何一つ変わらねえ朝の様子に、夜明け前の出来事は、馬鹿げた夢だったんじゃねえのかと、そんなことさえ考える。
 だが、いざ身を起こそうとしてみれば、下肢には重く鈍い痛みが走り……その生々しさが、あれは現実だったってことを嫌ってくらいに俺に思い知らせてくれた。
「……」
 酷く緩慢な動作で何とか上体を持ち上げて、俺は深く嘆息する。
 身体に怠さは覚えたが、久々にまともに眠ったせいだろう。
 頭はやけにすっきりして、昨夜まで胸に燻っていた苛立ちも嘘みてえに消えていた。
 ……。
 ふと、何気なく目を移せば、枕元には昨夜の着物が几帳面に畳まれている。
 それどころか、俺自身の身体もすっかり清められ、端から見れば、あの一件の痕跡は何一つ見られない。
「ッ……!」
 当然、俺が意識を失った後、それをやった奴の姿は、ここにはない。
 その事実に、刹那、苦いものが込み上げて、反射的に俺は奥歯を噛み締めた。
 ……。
「馬鹿野郎……」
 思わずそんな悪態が、乾いた喉から零れ落ちる。
 苦しげに歪んだ奴の顔は、まだはっきりと脳裏に浮かび、俺の心を波立たせた。
『貴方にはどうしても罰が必要だというのなら……それなら俺が、この手で貴方を罰します』
 ……。
 まるで最終通告みてえに、あいつが淡々と告げた言葉が耳の奥に蘇る。
 その度に、俺はここにはいないあの恋人を、馬鹿な奴だと思わずにはいられなかった。
 ……そう。
 今の俺の胸の中には、あいつへの憎悪なんて微塵もねえ。
 当然だろう。
 憎んだり、恨んだり、そんなこと誰が出来るか。
 伊達に四年もの間、一番傍にいた訳じゃねえんだ。
 一本気で馬鹿真面目なあいつの性分を、俺は誰よりよく知っている。
 そいつはつまり、山崎が考えそうなことなんざ、俺には簡単にわかるっていうことだ。
『だから俺は、貴方にとっての手足でありたい。副長と同じものを目指し、その命を実行し、分かち難いものとして、貴方が抱える罪悪や重責をともに背負っていけたらと、俺はそう思っています』
 ……。
 四年前、初めてあいつの恋情を直接言葉で聞いた夜、奴は真っ直ぐに俺を見据え、きっぱりとそう言い切った。
 多分山崎は、あの時自身が誓ったことを、果たそうとしたんだろう。
 そうだ。
 山崎は……あの馬鹿は、てめえ自身が俺をこうして踏みにじることで、俺と同じところまで堕ちて来ようとしやがった。
 てめえの誤った判断から、近藤さんに重傷を負わせたこの俺の罪悪感や自責の念を、ともに背負っていく為に。
「っ……!!」
『分かち難いものとして、貴方が抱える罪悪や重責をともに背負っていけたらと、俺はそう思っています』
(本当に馬鹿な奴だ。俺なんざの為に、何でそこまでする必要がある?)
 直後、ずっと胸に燻り続けて来た疑問が、また不意に頭を擡げる。
 山崎があれ程頑なに、俺に従おうとする理由。
 俺が奴にその訳を質したのは、あの告白の夜、一度きりだ。
 あの時あいつは、自分の想いを口にするのを躊躇った末に、俺を愛しているのだと、はっきりとそう告げた。
 その答えには、きっと今も変わりなんてないんだろう。
 勿論、俺は奴の想いをこれっぽっちも疑っちゃいねえ。
『副長……。俺は貴方をお慕いしています。それは、仲間や上役として敬愛しているという以上に、懸想をしている、という意味です。土方さん、俺は貴方を愛しています』
(山崎……)
 半ば無理矢理、奴の想いを聞き出して、口付けを交わしてから四年。
 決して短くはねえ時間の中で、俺達が肌を合わせたのは、昨夜が初めてのことだった。
 互いにもうガキじゃねえんだ。
 想いを確かめ合った以上、情を交わすことについて、勿論俺は全く考えなかった訳じゃねえ。
 だが、時折控えめに俺を抱き寄せ、口付けて来る山崎は、いつでも酷く幸せそうに笑っていたから……。
 俺はいつか、このままでいいのかと、そんなふうに思うようになっちまっていた。
 今にして考えりゃ、それは単なる俺自身の甘えだったのかもしれない。
 そうだ。
 あの生真面目な恋人は、どんな時も俺を想い、こっちがくすぐったくなるくらい、俺を大切に、丁重に扱っていた。
 そんなあいつが、どれだけの決意で俺を組み敷き、抱いたのか。
 俺の愚行が、あいつをどこまで追い詰めちまったのか。
 そのことを考えれば、胸の奥が重く鈍い軋みを上げる。
「山崎……」
 また自然と、恋人の名が零れ落ちて行く。
 と、刹那。
「副長」
「っ?!」
 廊下から不意打ちのように声を掛けられ、俺は鋭く息を飲む。
「……」
「お休みのところ、御無礼仕ります。お目覚めでしたら、お話させて頂きたい件があるのですが」
 ……。
 だが直後。
 声の主が寡黙な副長助役なんだと理解して、俺は動揺した自分自身に思わず深く嘆息した。
「斎藤か」
「はい」
「構わねえよ、入れ」
 端的に確かめた後、俺は奴を中へと促す。
「失礼致します」
 すると斎藤は、一言短く断ってから、戸を引いて、俺の前に姿を現した。
 ……。
 黒衣の男を目の当たりにして、正直密かに安堵を覚える自分がいる。
「悪いな、こんな格好でよ。今目が覚めたところなんだ。情けねえ、ちっとばかり寝過ごしちまった」
 深い色の瞳を見遣り、俺は先にそう告げる。
 と、斎藤は平素の無表情のまま、小さく左右に首を振った。
「問題はありません。我々もたった今、朝飯を済ませたところです。むしろ皆、副長が休んで下さったことに、安堵しておりました故」
「そうか……」
 何も知らずに告げられた言葉に、俺はまた、つい口許の苦笑を深くする。
 すると斎藤は、そんな俺を一瞥し、おもむろに背後にあった膳を前に差し出した。
(……?)
 見ればそこには、やや小振りな握り飯と湯呑みが一つ乗っている。
「そいつは?」
「今朝の当番だった千鶴から託されました。これならお忙しい副長も、召し上がりやすいのではないかと。彼女は彼女なりに、土方さんを案じているようです」
「……千鶴が」
 思わず俺が呟くと、斎藤は小さく顎を引く。
 そうして奴は、俺を見据え、またおもむろに唇を解いた。
「当初の予定通りであれば、二条城へ向かう手筈は我々が整えておきます。膳は、後で千鶴が下げに来るかと。出立の刻限まで、副長はこのままこちらにいらして下さい」
「……」
 表情を変えないまま、斎藤は次々にそんな言葉を紡いでいく。
(ったく、どいつもこいつも、お節介な奴らだぜ)
 情けねえ。
 それ程自分は、部下達に心配されちまっていたってことか。
 そう思えば、正直不甲斐なさに追い撃ちを掛けられている気分だ。
 だが、ここで突っぱねたところで、格好なんざつきやしねえ。
「……わかった。なら、そうさせて貰うぜ。千鶴にも礼を言っておいてくれ」
 だから俺は、小さく肩を竦めると、斎藤に向かいそう告げた。
「御意」
 斎藤は端的に答え、また軽く一礼する。
 ほんの一瞬、表情に乏しい漆黒の瞳が、柔らかな光を帯びたように見えたのは、果たして俺の気のせいか?
 俺は再び持ち上がった奴の視線を受け止めて、少し口角を持ち上げた。
 と、その時だ。
『副長……』
 ……!
 斎藤の静かな瞳に、吊り上がり気味の菫の双眸が重なっていく。
「……斎藤」
「はい」
「山崎はまだ屯所にいるな。悪ぃが、呼んでくれねえか」
 瞬間。
 俺は胸に湧いた衝動のまま、そんな言葉を口にしていた。
「……山崎を、ですか?」
 唐突な俺の頼みに、斎藤は僅かに怪訝な顔をする。
 こいつの反応は尤もだ。
 普段なら、俺が起きたことを知れば、山崎は呼ぶまでもなく、直ちにここにやって来る。
 当然助役の斎藤は、その日課を知っている。
 だから、こいつは訝しがるのも当然だろう。
 だが……。
 今日は恐らく、俺が呼びつけねえ限り、あの馬鹿がここへ来ることはねえ。
 そう確信できるからこそ、俺はただ静かに斎藤に向かい頷いた。
「ああ。急いで話してえことがあってな。これから着替えて、飯を済ませちまうから、頃合いを見て来るように、あいつに伝えといてくれ」
「承知しました」
 急拵えの理由だったが、どうやら得心してくれたらしい。
 斎藤は、今度は素直に顎を引く。
「では、俺はこれで」
 新たな任務を得た男は、そのまま静かに部屋を出て行く。
 その姿を見送りながら、俺は間もなく顔を合わせることになる、恋人の顔を思い浮かべ、深々と一つ嘆息した。

「副長、山崎です。お呼びと伺い、参りました」
 薄い戸を一枚隔てたところから、その声が聞こえたのは、朝飯を終えて、間もなくのことだった。
「ああ、入れ」
 落ち着かねえ、自分の鼓動を苦々しく思いながら、俺は平静を装って、短くそんな返事をする。
「失礼致します」
 すると山崎は、平素のように答えた後、音もなく戸を開き、部屋の中に入って来た。
 そうして奴は、居住まいを正し、そのまま深く一礼する。
 ……。
 ゆっくり上体が持ち上がり、菫の瞳が俺を捉える。
 見慣れた筈のその色を目にした瞬間、俺は刹那、息と言葉を飲み込んだ。
(山崎……!)
 胸の奥から、切なさと苛立ちに似た感情が押し寄せる。
 それ程に、目の前にいる恋人の面は酷かった。
 多分一睡もしちゃいねえんだろう。
 元々白い頬は血の気が乏しく、目の下にはくっきりと黒い隈が刻まれている。
 それ以上に深刻なのが、不自然な程、固く強張った表情だ。
「……」
 自分自身が仕出かしたこととは言え、こうして俺を前にして、緊張を隠せずにいるんだろう。
 初めて羅刹の存在を知った夜、部屋に呼び寄せた時も、こいつはこんな固い表情をしていたが……。
 今の山崎を見ていると、あの時の方がまだマシだったようにさえ思えて来る。
 だが、そんななかでたった一つ、四年前とは、明らかに違う点がある。
 それは、山崎の目だ。
 あの夜は、動揺に忙しなくさ迷い続けていた瞳は、今強い光を湛えて、俺を真っ直ぐ見詰めていた。
(山崎……)
 この輝きは、こいつの決意と覚悟の証、なんだろう。
 そんなことを考えて、俺はまた少し、唇を引き結ぶ。
「……」
 俺は今のこの男に、一体何を言えばいい?
 情けねえ話だが、その結論は、考えに考え抜いても、まだ出せちゃいなかった。
 責めるつもりは毛頭ねえ。
 だが、心配させたと詫びを告げても、生真面目なこいつは余計に萎縮しちまうだろうし、気にするなと言ったところで、気休めにしかならねえのは、俺が一番よくわかっている。
 そんなふうに考えていきゃ、告げられる言葉は何一つ見つからなくて。
 結局俺は、今この瞬間も、内心途方に暮れていた。
(……)
 ほんの少し手を伸ばせば、届く距離にいるってのに。
 少なくとも、俺はあんな無茶を仕出かしてまで、山崎がやろうとしたことを、ちゃんとわかってやっているのに。
 ただ一つ、伝えるべき言葉だけが見つからねえ。
 それが酷くもどかしい。
(くそっ……!)
 堂々巡りの自分の思考に、俺は内心舌打ちする。
 そうしてそのまま一つ肩を竦めると、俺は山崎を見返して、少し口角を持ち上げた。
「……?」
「呼び出しちまって悪かったな。出掛ける前にもう一度、今日お前に頼む仕事と、街道近辺の話を確認しておこうと思ってよ」
 考えに考えて、結局俺が口にしたのは、そんな何でもねえ、仕事についての話だった。
「っ!」
 俺が告げた一言に、山崎は露骨に大きく目を見張る。
 だが俺は、そんな奴の反応に、故意に気付かねえ振りをした。
「どうした?」
「っ……いえ、何でもありません」
 確信犯で逆に動揺を指摘すりゃ、生真面目な山崎は我に返って、小さく左右に首を振る。
「そうか?なら、さっさと話を済ませちまおうぜ。いつ状況が変わるかもわからねえ。お互い、時間は惜しいからな」
 俺はそんな奴に小さく笑うと、さらに一言そう付け加えた。
「副長……」
 と、俺の言葉に山崎はまた、ほんの一瞬複雑そうに眉を寄せる。
 だがこいつは何よりも立場や役目を重んじる男だ。
 山崎は、すぐに気を取り直すと、再び真っ直ぐ俺を見据えて、はっきりと頷いた。
「そう…ですね。では簡単にですが、昨日調べた内容につきまして、まず俺から再度、説明をさせて頂きます」
「ああ、頼む」
 多少物言いたげな様子はあるが、もう俺を映す瞳に、不自然な強張りは見られない。
 そのことを確かめてから、俺は答えて、山崎に先を促した。
 ……。
(……そうだ。これでいい)
 自分に言い聞かせるように、俺は内心そう呟く。
 ただでさえ、いつ戦さが始まるとも知れねえような状況なんだ。
 今は、言う言葉が見つからねえなら、敢えて余計なことを言って、波風を立てる必要もねえだろう。
(山崎……)
 不意にまた切なさに似たもんが込み上げて、俺は胸の内側で奴に向かい呼び掛ける。
 そう。
 今一番大切なのは、きっと先回りして解任だ除籍だと、余計なことを考えているだろうこの馬鹿に、そんな懸念は不要なんだと、ちゃんと教えてやることだ。
 それさえ山崎に伝えられりゃ、それ以上、余計な言葉は必要ねえ。
 時間なら、まだ幾らでもある。
 昨夜の件を改めて話すのは、もう少し時を置いて、情勢や互いの心が落ち着いてからでも、きっと遅くはねえだろう。
 結局考えるだけ考えて、俺はそんな結論に辿り着いていた。
(お前がここから離れる必要は何処にもねえ)
(これからも、公私ともに俺を支える存在として、お前は俺の傍にいろ)
 だから俺は、そんな想いを秘めながら、普段通りに山崎に仕事の話を持ち掛ける。
 多分それで、意図は伝わったんだろう。
 淡々と二度目の報告を行う山崎は、いつの間にかすっかり冷静さを取り戻しているようだった。
 そして俺も……。
 結局俺達は、これ以降、昨夜の一件を仄めかすようなことは、一度も口にしなかった。
 こんなのが、その場凌ぎなんだってことは、勿論理解しちゃいたが……。
 それでも「今はこれでいい」と、俺は半ば強引にてめえを納得させていた。





<後書き>
崎土連作13話をお届けします。前回は、完全なる山崎の一人相撲な話でしたので、今回は副長の視点からあの出来事を書いてみました。前回書ききれなかった部分を、これでご理解頂けたなら良いのですが。それはそうと、そんな二人は、こんなに相手のことをわかっていながら現在微妙に擦れ違い。そして、もう皆様おわかりかと思いますのではっきり書きますが、来月はこのまま鳥羽伏見に突入です。ははは……イバラ過ぎて涙が出ますね。こんな展開でよければ、またお付き合いください。


posted by 二月 at 19:43 | 山崎×土方連作「夢の蹟」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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