2012年06月30日

「託された想い」 山崎×土方

山崎×土方連作第19弾です。
今回は会津です。
山崎視点。一応、土方ルートを参考にしていますが、捏造度は高いです。
当然、斎藤君の出番多めです。




ご了承頂ける方のみ、本文へお進みください。









 陣の中には、緊張と疲弊の色が濃く滲んでいた。
 来たる薩長軍との戦いに備え、せわしなく働く兵達の脇を通り抜け、俺は足早に陣の最奥を目指す。
 顔を隠し、黒装束に身を包んだ自分が通り過ぎようとも、咎める者は誰一人いない。
 これも全ては、俺が動きやすいよう、島田君が手を尽くしてくれたおかげだ。
『これからは、水臭いことは言わず、俺にも協力させてください。互いの立場は異なりますが、力を合わせて、土方さんをしっかり支えていきましょう』
 日光で交わしたあの言葉通り、島田君は正式な軍籍を持たない俺が軍の中を堂々と動けるよう、あれこれ尽力してくれた。
 今では、俺の身元こそ知る者は僅かだが、土方さん直々に命を受け、諜報活動を行う人間がいることは、この隊の誰もが知っている。
 おかげで俺は、以前のように人目を気にすることもなく、堂々とあの方への報告へ伺える、という訳だ。
 幸い……とは口が裂けても言えないが、この隊には、京から苦楽をともにして来た新選組隊士は殆どいない。
 それにもし、今後俺を知るかつての同志と再会を果たしたとしても、自分が上手く説得すると、彼は俺に約束してくれた。
 そんな島田君の心の広さと配慮には、正直いくら感謝しても足りないと思う。
 しかし彼は、俺が礼の言葉を告げると、決まっていつも少し困ったように笑い『気にしないでください』と答えるだけだった。
 ……そう。
 新選組本隊と合流を果たした今、土方さんを支える役を担う者は、何も俺一人だけじゃない。
 この隊には、長年監察方としてあの方の下でともに働いて来た島田君や副長助役の斎藤さん、それに医術に明るい雪村君も籍を置いている。
 確かに敵と味方の兵力差は歴然だ。
 小競り合い程度ならまだ勝機もあるだろうが、こと戦の大局となれば、とてもじゃないが形勢逆転は不可能だろう。
 だがそんな状況にありながら、かけがえのない仲間達とまたこうして力を合わせられることに、俺は今、頼もしさと高揚を覚えずにはいられなかった。
「……っ!」
 刹那。
 瞼の奥に、ここにはいない方々の姿が、浮かんでは消えていく。
 甲府から帰還した後、新選組を離隊した永倉さんと原田さん。
 病が悪化し、戦線離脱を余儀なくされた沖田さん。
 そして、流山で後のことを土方さんに託し、一人投降した近藤局長。
 ……そうだ。
 あの方々とは、もうともに戦うことが出来ないとしても、俺達にはまだ、同じ「誠」の旗を掲げ、同じ志の下に戦う大切な仲間が存在する。
 羅刹になることを選んだ際、俺はこれからも副長の傍にいられるのなら、他には何も要らないと思っていた。
 例え金輪際、新選組隊士を名乗れずとも、仲間達と二度と語らうことさえ叶わずとも、土方さんの為に力を尽くせるのならそれでいい。
 そう考えていたことに、誓って嘘偽りはない。
 だが、どうやらそれは、単なる俺の強がりに過ぎなかったらしい。
 決して誰にも告げることはなかったが、こうしてまた、斎藤さんや島田君と肩を並べるようになって、俺はそれを嫌と言う程実感していた。
『君の勤勉さには、本当に頭が下がる。山崎君のような人を、まさに無私の人というのだろうな』
(ッ……!)
 瞬間。
 厳しくも温かい近藤さんの微笑を思い出し、俺は思わず唇を引き結ぶ。
 あれは一体いつのことだったか。
 屯所の廊下ですれ違った俺を労い、局長はそんな言葉を掛けてくださった。
 ……。
 あの方が5月に板橋の刑場で斬首されたと聞いたのは、この会津で斎藤さん達と合流した時のことだった。
『そうか……。近藤さんは、腹を斬らせちゃ貰えなかったか』
 斎藤さんからその事実を聞かされた時、土方さんは一切動揺を見せなかった。
 決死の助命嘆願を聞き入れて貰えなかった時点でもう、あの方はきっと、この結末を覚悟しておられたのだろう。
 2人になり、俺が静かに声を掛けると、副長は『仕方ねえ。こうなりゃ、新選組の面倒は俺が最後まで見るしかねえか』と呟き笑った。
(土方さん……)
 その表情に、あの冬の日のような危うさは存在しない。
 だから俺も、それ以上余計な言葉を告げることなく、ただ頷いて、愛する人の白い手にそっと自身の右手を重ねた。
 ……無論、近藤局長の死に、土方さんが怒りや悲しみを覚えていない訳はないのだろう。
 しかし今、この方は毅然と前を向き、自らが先頭に立ち、新選組を……武士達を率いて行こうとされている。
 ならば俺は、全力でそれを支えるだけだ。
 例えこの道の果てで待つのが、どんな場所であろうとも。
 我々が挑むこの戦いの結末が、敗北と死の他にないとしても。
(土方さん……)
 胸の奥で、俺はまた、愛しい人の名を呟く。
 近藤さん斬首の報せを聞いた後も、あの方は頑なに自らが『局長』と称されることを拒まれている。
 その事実に、不意に痛みに似た感情が湧き上がり、俺は刹那、ぐっと奥歯を噛み締めた。

 陣の最奥まで来ると、愛しい人はこの辺りの地図を睨みつけながら、眉間に皺を寄せていた。
「土方さん」
 低めた声で呼び掛けると、彼はゆっくり頭を擡げて俺を見る。
「山崎、戻って来たか」
 確かめるように告げられた言葉に、俺は恭しく一礼した。
「はい。帰還が遅れ、申し訳ありません。ですがこれで敵方の布陣は、おおよそ把握出来ました」
 そこまで言うと、俺は居住まいを正して愛する人をじっと見上げる。
「薩長軍は、ほぼ土方さんが予想された通りに展開しています。中山道を進む部隊は、やはり陽動目的の別働隊に過ぎません。敵の本隊は、真っ直ぐに母成峠を目指しています。それを指揮しているのは、板垣退助と伊地知正治の両名です」
「数は?」
「……およそですが本隊1300。陽動部隊が800といったところかと」
「800か……成る程な」
 と、瞬間。
 俺の答えに、土方さんは大仰に一つ嘆息する。
「?」
「ったく、参るぜ。別働隊でさえ、こっちの倍はいるじゃねえか。台場を抑えた山ん中なら、多少の抵抗は出来るだろうが、だとしても、この数を覆すのは至難の技だぜ。こっちにゃ、増援を期待出来る味方部隊もいねえってのによ」
 そこまで言うと、聡明な方はまたグッと唇を噛み締めた。
「……」
「ここまでか。多分会津は、もうもたねえな」
 そうして副長は、苦々しくその事実を口にする。
「っ……!」
 俺が思わず息を飲むと、愛しい人は俺を見据え、少しだけ口の端を持ち上げた。
「まあ……、そうは言っても、ここで今すぐ撤退なんて腑抜けた真似は出来ねえけどな」
「土方さん……」
「山崎、悪ぃが斎藤を呼んで来てくれるか。貴重な味方を犬死にさせたくねえからよ。打てる手は、可能な限り打っておきてえ」
 そうして何処か自嘲気味に呟いた後、土方さんはすぐに表情を引き締めて、俺にそう指示を出す。
 その一言に、俺は勿論間髪入れずに頷いた。
「わかりました。斎藤さんは、今陣の外で見張りの確認をしています。すぐに探して参りますので」
 そうして一つ頭を下げると、俺はすぐさま踵を返して歩き出す。
 が、直後。
「っ……待て、山崎!」
 後方から、声とともに腕を掴まれ、俺はその場で足を止めた。
「……はい?」
 訝しく思い振り向けば、土方さんはやけに真剣な顔をして、俺をじっと見詰めている。
「……?」
「お前、血の匂いがするな。偵察の間に、どっかで敵と戦ったのか?」
 ――っ!!――
 瞬間。
 突きつけられたその一言に、俺は自分の心の臓が、どくりと大きな音を立てるのを自覚した。
 …………。
 深紫色の双眸は、こちらの反応を見逃すまいとするように、なおも真っ直ぐ俺を捉えて放さない。
 その鋭い輝きに、俺は自らの劣勢を、嫌という程理解した。
(……これは、気のせいだと言い張ったところで無意味だろうな)
 元々、勘が鋭く聡明な方だ。
 俺ごときが何でもないと言い張ったところで、通用するとは思えない。
(それならここは……)
 おもむろに姿勢を正すと、俺は真正面から土方さんを見返して、そのまま一つ顎を引いた。
「……実はここへ戻る途中、敵方の斥候とおぼしき者に遭遇しました」
「斥候だと?」
「はい。その男が何を掴んでいたかはわかりません。ですが、ただでさえこの不利な戦況です。その者を生かして返すべきではないと判断し、そのように対処しました。それだけのことです」
「……山崎」
 刹那。
 深紫色の双眸が、複雑な色を湛えて揺れる。
 その瞳を一瞥して、俺はまた深く一礼した。
「申し訳ありません。まず第一に、このことをご報告するべきでした。その男を斬ったところで、こちらの情報が漏れた可能性は否定出来ない。相手を斬り伏せたことに慢心し、重要な報告が遅れたことは、俺の落ち度です。本当に申し訳ありませんでした」
「……」
 そうして、頭を下げたまま、改めて謝罪の言葉を口にする。
 土方さんは暫くの間、そんな俺をただ黙って見詰めていた。
 が、やがて。
「山崎」
「はい」
「お前に怪我はねえんだな?」
 名を呼ばれ、顔を上げた俺に向かい、副長は静かにそう尋ねる。
 その問いに、俺はまた小さく頷いた。
「お気遣いありがとうございます。ですが、心配には及びません。この通り、俺は無傷です」
 そうして、愛する人が自分を案じてくださったことに、密かな高揚を自覚しながら、俺はきっぱりそう答える。
「そうか…ならいい」
 すると副長は、まだその瞳に複雑な色を滲ませながらも、小さくそう呟いた。
(っ……土方さん!)
 瞬間。
 愛しい人の反応に、胸の奥から苦いものが湧き上がる。
 ……。
 恐らく、物事に聡いこの方は、俺の言葉に幾許かの虚偽が混じっていることを、漠然と見抜かれているのだろう。
 そう思えば、信頼を裏切るような真似をしている自分自身に、俺は罪悪感すら覚えてしまう。
 だが……。
(これでいい。こんなことは、土方さんが知る必要はないことだ)
 胸の内でそう呟き、俺は無理矢理、自分自身を納得させた。
 そう。
 この方が今考えるべきは、この軍と新選組の行く末のみ。
 土方さんには、俺のことなど顧みて頂く必要はない。
 そう自らに言い聞かせ、俺は唇を引き結ぶ。
「……」
 俺はもう金輪際、宇都宮でのような真似は繰り返さない。
 これからは、常にこの方の傍に在り、どんな手を使おうとも、必ず守り抜いてみせる。
 その為に必要ならば、俺は愛するこの方に嘘さえ吐こう。
 両刃の刃である羅刹の力の使用にも、最早躊躇は微塵もない。
(土方さん……)
 そんな考えを巡らせれば、俺には今これ以上、土方さんに掛ける言葉は存在しない。
 俺はもう一度、最愛の人に深く一つ頭を下げると、無言のまま、陣の外へと歩き出した。

 結局会津における薩長軍との戦いは、その後副長の予見通りになってしまった。
 圧倒的な戦力差の前には、戦略や奇襲など何の役にも立ちはしない。
 決死の抵抗や反撃も虚しく、前線はじわじわと後退し、最早会津若松城下さえ、戦火に巻き込まれるのは時間の問題だ。
 ここに至り、土方さんは会津からの撤退を決定された。
『これ以上、この会津で戦い続けたって、正直なところ勝機はねえ。ならここは、まだ余力を残した仙台に場所を移して、反撃に転じるべきだろう』
 会津の劣勢が誰の目にも明らかな今、その意見に異を唱える者はいなかった。
 ただ一人、斎藤さんを除いては。
『今日の我々が在るのは、会津藩の庇護があったからに他なりません。ならば我々は、武士として、会津藩へ微衷を尽くすべきではないでしょうか』
 それは青天の霹靂だった。
 常日頃は感情に乏しい双眸に苦渋と決意を滲ませながら、斎藤さんは自ら新選組から離脱して、会津に残ると進言する。
 土方さんは、斎藤さんのその決断に、一切反対はしなかった。
 彼はただ、何処か寂しげな笑みを浮かべて、斎藤さんが『誠』の旗を掲げて戦うことを許し、雪村君にもこの地に留まるよう告げる。
(土方さん……)
 京にいた頃より、斎藤さんは、いわば土方さんの腹心だった。
 その彼とここで道を分かつことは、勿論副長にも新選組にも、大きな打撃となるだろう。
 俺自身も、今まで散々世話になったこの方を、闇雲に死に向かうような戦いの渦中に置いて行くのは、正直言って忍びない。
 だが……。
 土方さんは斎藤さんにこうも仰った。
 新選組は、自分だけのものではない。
 誠を志して戦い続けている限り、何処にいようと、誰もが皆新選組だ、と。
 その一言に、俺は愛しい人の胸の内を、はっきりと理解した。
 そう。
 例え道を分かつことになろうとも、我々は同志だ。
 それは何も、斎藤さんや雪村君だけに限ったことではないのだろう。
 今も関東で戦い続ける永倉さんや原田さんも、我々の大切な仲間なのだと、土方さんはそう仰りたかったに違いない。
(土方さん……)
 そうだ。
 明日をも知れぬ戦いが続くなかでは、かけがえのない仲間であっても、貫くべき信念は皆それぞれに違うものだ。
 だが、例え遠く離れようとも、我々は同じ『誠』の旗の下にある。
 その一言に、俺は胸の奥が熱くなるのを自覚する。
 そうして俺は、愛しい人の意に従い、このまま斎藤さんや雪村君との別離を受け入れようと決意した。

 それからさらに3日後の夜。
 偵察の為、一足早く会津を離れることになった俺は、出発間際、斎藤さんの元を訪れた。
 例え戦の最中にあっても、剣を愛するこの方は、愛刀の手入れに余念がない。
 俺が静かに近付くと、斎藤さんは僅かに俺を一瞥し、手を止めて振り返った。
「山崎、行くのか?」
 俺の用向きを、どうやら予測されていたようだ。
 端的に問われ、俺は小さく顎を引く。
「はい。先行して仙台に入り、城下の状況を探ります。万が一にも敵軍に先を越されていない保証はありませんから」
 俺がそう答えると、斎藤さんは得心したように、一つ顎を縦に引いた。
「ああ、そうだな。だが、敵は薩長軍ばかりではない。先行して根回しを行っている山南さん達の動向も気掛かりだ。くれぐれも油断はせぬことだ」
「はい!肝に銘じます」
 的確なその忠告に、俺ははっきり了承の意を伝える。
 と、刹那。
 何となくそこで会話が途切れ、俺達は暫く互いを見遣り、次の言葉を探していた。
 ……。
 …………。
 恐らくこれが、今生の別れになるのだろう。
 それが理解出来るから、尚更安易な別れを口にするのは憚られる。
 だが……。
 変若水を飲み、文字通り副長の影となることを自らに義務づけてから、俺は幾度も別れの言葉も言えぬまま、大切な仲間達を見送って来た。
 しかし、今回はそうではない。
 俺はこうして、斎藤さんに直に言葉を掛けられる。
(それなら、この機会を無駄にするべきではないだろう)
 そこまで考えを巡らせた後、俺はすっと居住まいを正して、自分とほぼ同じ高さにある鋭い瞳を見返した。
「斎藤さん」
「ん?」
「今まで、本当にありがとうございました。大した剣の腕もなく、監察方としても未熟者だった俺は、幾度貴方に助けて頂いたかわかりません。今更ですが、改めて礼を言わせてください」
 そうして胸の内にある感謝の意を言葉にすると、おれは深々と一礼する。
 しかし、そんな俺に対する斎藤さんの反応は、予想通りに淡々としたものだった。
「礼など不要だ。俺もあんたも、ただ自身の隊務に力を尽くした。ともに土方さんを支える立場の者同士、協力して任務に当たることが多かった。それだけのことだ」
「ですが……」
 こういう物言いをされる方なのは、充分理解しているが、今度ばかりは引き下がれない。
 俺はなおも、反論を口にしようとする。
 が、直後。
 何を思ったのか。
 斎藤さんは珍しく、不意に口角を持ち上げた。
「……?」
「だが……そうだな。あんたが浪士組に入った頃、俺はよく隊務の間を縫って、剣の稽古に付き合っていた。そのことについてならば、礼を受け取ってもいいだろう」
 そうして彼は、本気とも冗談ともつかない調子で、そんな言葉を付け加える。
 その物言いに不意に懐かしさに似た感情がこみ上げて、俺もまた、思わず小さく微笑んだ。
「そうですね。あの折は、本当にお世話になりました。ろくに剣も握ったことがなかった俺が、人並みに戦えるようになったのは、あの頃の斎藤さんや永倉さんの御指導の賜物です。本当に、幾ら感謝をしても足りません」
 そして、昔を振り返りながら、俺は改めてそう告げる。
 すると斎藤さんは、そんな俺を一瞥し、小さく左右に首を振った。
「なに、謙遜することはない。確かに教えたのは俺達だが、あんたの成長はあんた自身の努力の成果だ。今だから言うが、よくあれだけの激務をこなしながら鍛錬を怠らないものだと、俺や新八は、よく話をしていたものだ」
「っ、斎藤さん……」
 そこまで真っ直ぐに賞賛されては、さすがに少し面映ゆく、俺は思わず口篭る。
 だが斎藤さんは、俺の反応などさして気にした様子もなく、また少し口許の笑みを深くした。
「確かに入隊した当初、あんたは気概ばかりの素人だった。だが、多くの者が新選組を離脱するなか、あんたは今もここにいる。それは誇るべきだろう」
 そうして斎藤さんは、きっぱりと俺にそう告げる。
「っ……!」
 反射的に息を飲むと、深い色を宿した瞳は、不意にすっと鋭さを増した。
「山崎」
「はい?」
「あんたは、俺が会津に残ることを、意外に思っているのだろう?」
 ……。
 改めて尋ねられ、俺は思わずこくりと頷く。
「そう、ですね……。正直かなり驚きました。斎藤さんは以前、右刺しの自分を武士として認めてくれた局長や副長の為に、この身を賭して働くのだと、そう仰っていたでしょう?」
「ああ」
「だから……。失礼ですが、俺は貴方も、自分と同じだと思い込んでいたんです。武士の血を持たない俺には、新選組こそ武士でいられる唯一の場所。他に何処にも居場所はない。何処かへ行きたいとも思わない。斎藤さんもそうなのだと、俺は勝手に信じていたのだと思います」
 そこまで言うと、俺は自身の愚かさを揶揄するように、小さく一つ肩を竦める。
 すると斎藤さんは、やけに真剣な目でそんな俺を一瞥し、やがて細く嘆息した。
「……いや、あんたの考えは正しい。俺とて少し前までは、新選組と……土方さんと袂を分かつことになるなど、考えもしなかった。以前の俺ならば、大恩ある会津藩に微衷を尽くすべきではないかと考えつつも、副長の決定に反してまで、その道を貫こうとはしなかっただろう。だが……」
 刹那。
 深い色の双眸が、不意に意味あり気な光を湛える。
「……?」
「だが今、土方さんにはあんたがいる。真に志を同じくし、迷うことなく同じ道を歩んで行けるあんたがあの人を支えるのなら、俺はここで道を分かち、自らの信念を貫いてもいいだろう」
「っ……斎藤さん!」
 不意打ちのようなその言葉に、俺は堪らず声を上げる。
 ……。
 ここまで言ってくださったことは、勿論非常に感慨深いし、身に余る光栄だと思う。
 だが同時に、その言葉に篭められた想いの深さを痛感し、俺は困惑を覚えずにはいられなかった。
 しかし斎藤さんは、そんな俺の動揺など意にも介さず、また改めて俺の瞳をじっと見据える。
「山崎」
「はい」
「本来俺には、このようなことを言う権利はないし、言う必要がないことも理解している。だがどうか言わせて欲しい。……あの人を、土方さんを頼む」
 そうして真っ直ぐに、斎藤さんはそんな言葉を口にする。
(斎藤さん……!)
 静かだが真剣なその眼差しに、俺はこの方が今、どれだけの決意を胸に秘めておられるのか、改めて思い知る。
「……わかりました。誓います。例えこの身に代えようとも、俺は副長と、あの方が歩まれる道を守ります」
 だから俺は、はっきりと顎を引き、斎藤さんにそんな誓いの言葉を述べた。
「……ありがとう」
 と、斎藤さんは、俺の答えに端的な感謝の意を告げる。
 闇色の双眸には、深い感慨と安堵が滲み……。
 俺は初めて目にする斎藤さんのこの表情を生涯忘れることはないのだろうと、そんなことを考えていた。





<後書き>
2ヶ月ぶりの更新となりました。崎土第19話をお届けします。今回は会津、チーム土方のターンです。(笑)このエピソードは、絶対入れたいと思ってました。連作を開始する前、きっかけになった友人との萌え語りで、同じように土方信望者でも、決定的に立場や考え方が違う山崎と斎藤君についてあれこれ話をしたのを思い出します。さて、次は仙台編です。山南さんと平助の出番ですね。それではまた来月、よければ遊びに来てください。


posted by 二月 at 12:18 | 山崎×土方連作「夢の蹟」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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