2012年08月30日

「別離の時(1)」 山崎×土方

お待たせしました。山崎×土方連作第20弾です。
今回は仙台編。
山崎視点。一応、土方ルートを参考にしていますが、捏造度は高いです。
なお、本日の更新は(1)のみです。
続きについては、完成次第随時更新のかたちをとりたいと思いますので、もう暫くお待ち頂ければ幸いです。




ご了承頂ける方のみ、本文へお進みください。










 夕刻。
 秋を迎えた仙台の町は、不穏な気配を漂わせていた。
「……」
 迫り来る戦への不安に、横行する辻斬りに対する恐怖。
 最近、何かと物騒な話ばかりが多いせいか、この地の民は誰もが皆、顔を伏せて足早に家路を辿っていく。
 そんな人々の間を縫って、俺は城から仮の宿へ続く通りを、小走りに一人、進んでいた。
(急がなければ……)
 胸の内で、幾度目かの呟きを漏らせば、無意識に、また少し歩調が速くなる。
 ここ数日、状況が膠着していただけに、ようやく掴んだ事態打開の糸口を、一刻も早く副長にお知らせしなければという思いは強い。
 昼日中、歩き回っていたせいで、疲労感は拭えなかったが、敢えてそこから目を逸らし、俺は自分を待っていて下さる方の元へとひたすら急いだ。

 俺が本隊に先んじて、この町に入ったのは、今から5日程前のことだった。
 当初、俺はすぐに先行部隊の山南さん達と合流し、本陣の到着前に、状況確認や仙台藩への根回しを終える手筈となっていた。
 だが、この地に着くなり、その計画は破綻してしまう。
 一体何処へ身を潜めたのか。
 先行した筈の羅刹隊が、忽然と消息を絶ってしまった為だ。
 何とか懸命に、彼らと接触を図ろうと試みてはみたものの、幾ら城下を駆け回ろうとも、相手の所在は要として知れない。
 それならばと、単身諜報活動を行うことも考えたが、何の伝手もない土地では、それさえ容易なことではなく、結果、俺は徒に、焦りと苛立ちばかりを募らせる日々を過ごしていた。
(くそっ、一体何が起こっているんだ……!)
 この地に来てから、俺はもう何度、そう吐き捨てたかわからない。
 勿論、羅刹隊だけを先に仙台入りさせる危険性について、副長が全く考えていなかった訳じゃない。
 だが、この土地は他ならぬ山南さんの生まれ故郷だ。
 根回しを行うのに、彼以上の適任はいないし、彼の傍には藤堂さんがいてくれる。
 だから、いざとなればあの方が抑止力になるだろうと、俺達はそう高を括っていた。
 ……そうだ。
『んな心配しないでくれよ。山南さんのことは、俺がちゃんと見てるからさ。大丈夫だって』
 自ら羅刹になって生き延びることを選んで以来、藤堂さんはいつもそう言って、どこか危うい山南さんの監視役を引き受けてきた。
 薩長軍に惨敗を喫し江戸に退却して以降、山南さんの行動には、不審な点も多々あったが、藤堂さんまでがそれに加担することなどありえない。
 なら、懸命な捜索にも関わらず、あの方からさえ連絡がないのは、一体何故か。
 幾ら考えてみたところで、俺に答えは見つからなかった。
 しかもそんな折、耳にしたのは、夜な夜な城下に辻斬りが出る、という不穏な噂だ。
 その話に、俺は嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
 羅刹がその忌まわしい吸血衝動を抑え、理性を保ち続けるには、定期的に血を口にする必要がある。
 ある程度なら、その衝動を薬によって抑えることも可能だが、行軍中に必要な薬を調合するのは容易ではないし、それが大所帯の部隊となれば尚更だろう。
 となれば、羅刹達を戦力として維持し続ける方法はただ一つ。
「っ……!」
 そこまで考えて、俺は堪らず唇を引き結ぶ。
 思えば、新選組が江戸に下って程なくした頃も、同じような辻斬り事件が屯所の周囲で起きていた。
 あの時には、組織の立て直しに皆忙しく、追及することが出来なかったが……。
 今のこの状況を考えれば、やはりあれも、羅刹隊の仕業だったことを疑う余地はないだろう。
 事実、辻斬りが始まった時期は、山南さん達が仙台を訪れたと目される頃と、完全に一致している。
 その事実を確証として、俺は昨日、仙台入りした土方さんに、直ちにこの件を報告した。
『……成る程な。確かに現状から考えりゃ、お前の見方が妥当だろう』
 副長は、話を聞き終えると、2つ返事で俺に同意してくださった。
 そうして隊士達には、すぐに号令が下される。
『いずれにせよ、まずは辻斬りの再発防止が先決だ。羅刹が関係しているんなら尚更だろ。現場をおさえて、これ以上の被害を出さねえようにするしかねえ』
 土方さんは、即座に隊士を幾つかの班に分け、自らも先頭に立って、市中の巡回を開始した。
 その一方で、副長は俺に、まったく別の命令を下された。
 それはすなわち、かたく門を閉ざしたままの仙台城の偵察だ。
『考えてもみろよ。あれだけの数の羅刹を、人目を避けて匿うなんざ、そう簡単なことじゃねえ。それに、あの人には、この藩の要人に伝手があるからな。なら、一番可能性が高いのは、あそこじゃねえか』
『っ……そう、ですね』
 副長の指摘は的確だ。
 確かに、あれだけ市中を捜索しても、足取りが掴めなかったんだ。
 それに、辻斬りの現場以外で羅刹らしき物を見たという証言は、圧倒的に城の周辺に集中している。
 命令を受け、俺は速やかに行動を開始した。

 到着以来、土方さんが幾度使者を送ろうとも、答えなかった仙台城。
 仮に山南さん達があそこに潜伏しているのなら、何故頑なに我々との接触を拒むのか。
『まずは、城に潜入し、羅刹の所在と場内で何が起きているのかを突き止める。次に、あわよくば山南さんか藤堂さんに接触を試みる。今俺に課せられているのはこの二つだ』
 そう自らに言い聞かせ、俺は単身城に乗り込む。
 かたく門を閉ざした城に潜入するのは、勿論容易なことではない。
 だが、そんなことを言っている場合ではないだろう。
 自分は羅刹。
 人間の武器で受けた傷では、そう簡単に死なない身体だ。
 俺は、側面にある小さな門にあたりをつけると、暫し様子をうかがった後、そこからの突入を試みた。
 ……皮肉なことだが、羅刹の身体能力というのは、こういう時に、便利なものだ。
 見張りが何かに気を取られ、ほんの一瞬持ち場を離れた隙をつき、俺は門の内側に入り込んだ。
 が、直後。
「うわぁ!!」
「っ……!!」
 ほぼ同時に、中から飛び出して来ようとした人影と、危うく衝突しそうになり、俺は思わず目を見張る。
 しかも……。
「っ、あっぶねぇ。悪ぃ、急いでからさ。って……ええ、山崎君?!」
「と、藤堂さん!」
 次の瞬間。
 互いに相手が誰であるかを認識し、俺と彼は、同時に声を上げていた。
 ……。
「……」
 正直、動揺が隠せない。
 再三接触を試みようとしていた相手と、まさかこんなかたちで会うことになろうとは。
 改めて見れば、彼は会津で別れた時と全く変わったところはなく、何かの問題に巻き込まれているような様子も見られない。
 その事実に安堵とともに不意に苛立ちがこみ上げて、俺は思わず彼の顔をきつく睨みつけていた。
「藤堂さん!今まで何をされていたのですか?!ちゃんとわかるように説明してください!!」
 俺が思わず声を荒げて詰め寄ると、藤堂さんは露骨に慌てて、きょろきょろと辺りの様子に目を向けた。
「ちょ、山崎君やばいって。気持ちはわかるけど、落ち着いてよ。こんなとこ、山崎君も見られる訳にはいかねえだろ」
「っ、しかし……」
 言われたことは正論もだが、かといって、こちらも引き下がる訳にはいかない。
 だから俺は、潜めた声で、さらなる反論を試みる。
 だが、刹那。
 一体どうしたというのだろう。
 藤堂さんは、不意に酷く苦しげな顔をした。
「……?」
「悪かったよ。まったく連絡もしないでさ。けど俺だって、本当はもっと早く、山崎君や土方さんに、山南さんのことを伝えたかったんだ。俺一人じゃ、もうどうしていいかわかんなくて」
「……?」
「本当だよ。今だって、ようやく隙が出来たから、何とか皆に連絡出来ないかって、町へ出るとこだったんだ。信じてくれよ」
「……一体どういうことですか?」
 告げられた声の響きがあまりにも切実で、俺はまた眉を寄せる。
 が、藤堂さんは、そんな俺に小さく首を横に振った。
「待った!さすがにここじゃ言えねえよ」
「それは……」
 今度ばかりは藤堂さんの判断が正しい。
 こんな誰に聞かれるとも知れない場所で、込み入った話などするべきではないだろう。
 俺が黙ると、藤堂さんはいつになく真剣な顔で、俺の目をじっと見据える。
「山崎君、今の潜伏先を教えてくんない?俺、必ず抜け出して、今夜そっちに足運ぶから」
「藤堂さん……」
 こんな顔で懇願されれば、勿論無碍になど出来ない。
 第一、俺は元々この方が我々を裏切る可能性など、これっぽっちも考えてはいないんだ。
「わかりました。では、今から言う場所まで来てください。土方さんには、俺から伝えておきますので」
 だから俺は、静かな声で彼に向かってそう告げる。
 その一言に、藤堂さんはほんの少し、表情を和らげた。
「うん、約束するよ。山崎君……ありがとな」
 藤堂さんは、俺にやけに嬉しそうに囁くと、大きな瞳を感慨深げに細くした。

 こうして俺は、彼と別れ、今一路、仮の宿へと向かっている。
 一体藤堂さんは、何を俺達に伝えようとしているのか。
 彼が手に負えない山南さんの動向とは一体何を示すのか。
 考えれば考えるほど、漠然とした不安ばかりが胸の奥から湧き上がる。
 だから俺は、余計な思考を振り払い、ただひたすらに足を進めることだけに没頭した。
 ……そうだ。
 何があろうと、俺自身が為すべきことは変わらない。
『山崎……』
 ……。
 俺には支えたい方がいる。
 命を賭して、守るべき方がいる。
 この先何が起きようとも、俺は愛しいあの方の為に働くだけだ。
 沈みゆく太陽を睨みつけ、俺はそう決意を新たにする。
『本来俺には、このようなことを言う権利はないし、言う必要がないことも理解している。だがどうか言わせて欲しい。……あの方を、土方さんを頼む』
 刹那。
 そんな俺の脳裏に、あの日聞いた斎藤さんの静かな言葉が蘇る。
 その声に背を押されるように、俺は角を左に曲がると、またさらに速度を上げて、ひっそりと静まり返った仙台の町を駆け抜けた。


<続く>


posted by 二月 at 17:52 | 山崎×土方連作「夢の蹟」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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